今まで一般的な睡眠時無呼吸症候群の講演(まだ勉強不足でお恥ずかしいのですが)をやってきましたが、今回はそれに加えて血圧の変動をお話しました。睡眠時無呼吸症候群の患者さんは精密検査のために一晩泊まっていただいております。私が当直ですべてを管理していますが、夜中に無呼吸が始まるわけです。すると患者さんが無呼吸の後やっと呼吸が戻ったその瞬間、脈拍がドーンと上がることが観察されます。中には20-30%も脈拍が速くなる患者さんもおります。これは交感神経が興奮して心拍数を上げているのですが、200回も300回も呼吸が止まる患者さんでは、その交感神経の興奮が休まる暇もなく、さらに夜間のみでなく日中も興奮状態が続くというのです。交感神経が興奮しっぱなしになると、血圧が高くなります。ストレスや興奮状態で血圧が上がるのは交感神経の興奮があるからといわれています。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは高血圧になる頻度が高く、無呼吸のない方の数倍多いといわれています。
睡眠時無呼吸症候群の治療(CPAPなど)をしますと、経験的には血圧が下がる傾向にあるということは分かっていました(全員ではありませんが)。
今回の講演に先立ち、19年1月に当クリニックへ来院されたCPAP治療中の患者さんのデータをとってみたところ、驚く結果が出たのです。
【図1】を見ていただくとお分かりのように、治療前に高血圧の治療中または実際の血圧値で高血圧と診断された患者さん47人で、CPAP治療後の血圧の推移をみますと、1ヵ月後に既に血圧は下がってきて、6ヵ月後には更に改善していたのです。6ヶ月たってもまだ高血圧の範疇にある患者さんは13人のみとなり、3人のうち2人はCPAPだけで高血圧が改善したという結果が得られました。ものすごく厳密に比較・評価したわけではないのでこの割合が普遍的なものとは考えていませんが、高血圧の患者さんの中には睡眠時無呼吸症候群によって高血圧になった人が少なからずいらっしゃるのではないだろうかと考えさせられました。中には高血圧の治療中の患者さんでも、薬が減ったという方もおりました。
一方最初から血圧が正常な患者さんではどうかというと、
【図2】を見ていただくとやはり下がっているのです。最高血圧・最低血圧ともに2mmHgくらいですが・・。たいした差ではない、と思われるかもしれませんが、考えても見てください。24時間、365日、5年、10年と続けばその僅かな2mmHgの血圧の差が心臓へ大きな負担となって、あるいは血管にかかる圧力の負担になって動脈硬化を促進させたり、心臓を弱めたりする可能性があるわけです。またそうした小さな差が長く続くことで、やがては本当に高血圧になってしまうこともありうるわけです。原因があって、薬以外の治療でよくなる高血圧、それが睡眠時無呼吸症候群にともなう高血圧です。またそうした高血圧の患者さんも割と多くいるのではないかと思っています。
また、講演の時には経験なかったのですが、最近ある高齢の患者さんがおりました。女性で腎機能が悪くて、高血圧があって・・。腎障害を悪化させない為にも血圧は高くならないようにしなければならないのに、5種類も血圧の薬を処方しても160-180mmHgより下がらない患者さんがいます。もしやと思って「イビキかきますか?」と伺うと、「多分かきます」というのです。半信半疑で睡眠時無呼吸症候群の検査をしたところ重症の睡眠時無呼吸症候群と診断されCPAPを開始しました。まだ1-2ヶ月の治療なのではっきりしませんが、治療後の血圧は150台になっていました。今後もっと下がって、薬が減ることを期待しているところです。