まず、「さて、あなたはできますか?」ということで4つの質問をしました(仮にの話です)。
(1) タバコが好きなあなた、胃がんで手術をしました。タバコを吸い続ければ胃がんの再発は100%ですが、禁煙すれば再発はありません。
…さて、あなたは禁煙できますか?
(全員手を上げました)
(2)
あなたは糖尿病で、間食と肥満が原因です。もし、減量して間食を止められたら所得税を半分にするか年金を2倍にします。
…さて、あなたは間食をすぐに止めて減量できますか?
(笑いながら、全員手を上げました)
(3)あなたは糖尿病で、このままでは失明すると言われました。コントロールも良くありません。
…さて、あなたは食事療法を守って運動し、コントロールを良くしようと思いますか?
(大部分の人は手を上げました)
(4)あなたは糖尿病で、コントロールは悪いのですが、どこも具合が悪くなく元気で楽しく暮らしています。
…さて、あなたは食べたいものを我慢して食事療法を守って運動もし、コントロールを良くしようと思いますか?
(・・・・何人かは手を上げました)
癌という恐ろしい病気から逃れることができるのなら何でもできると言う決意、年金など目に見えるご褒美があればやるというしたたかさ、糖尿病の怖い合併症が現実のものとなったときの衝撃、こうした外部からの働きかけがあると人間と言うものは素直に従えるもののようです。しかし、(4)のケースでこそ手を上げなければならないのです。血糖・尿糖・低血糖・体重・血圧などの検査結果値を自分で判断して行動を起こさないといけません。
血糖値はインスリンでコントロールされています。糖尿病ではインスリンが少ないか、働きが弱められています。生活の中で患者さんが気をつけることとは、インスリンの無駄遣いを無くすこと=食べ過ぎないこと、インスリンの働きを改善すること=運動して減量すること、が必要です。
メタボリック症候群が巷を賑わしています。例えば沖縄の男性は肥満が増え、平均寿命の全国順位がどんどん下がっていることが知られています。この傾向は今後全国に広がっていくそうです。5年毎の糖尿病の推計罹病人数は過去2回とも増加しており、今年が調査の年ですが、おそらくさらに増加しているでしょう。
食べ物は調理の仕方でカロリーが変わります。考えてみれば、煮たり焼いたり「調理をする」のは人間だけです。鮭100g(中1切れ)は生なら140kcalですが、フライにすると340kcalとなります。豚ロース100g(中1切れ)は生なら260kcalですが、トンカツにすれば480kcal、ナス100g(大1本)は生なら20kcalですが天ぷらにすると240kcalとなります。油を使った「調理」は恐ろしい!
熊は生で鮭を食べているし、ライオンは生で動物の肉を食べている。しかも、肉が余っても満腹になれば食べるのをやめてしまう。もったいないからといって残さずたいらげることもない。
最後に実際の患者さんの例を提示して、糖尿病の療養のヒントを学んでほしいと思います。(ご本人の了解は得ています)
《症例1》38歳、女性。以前もご紹介したケースです。
9年前に糖尿病といわれました。中等度の肥満で、インスリン治療中。
ある日職場で、太ったお客さんが来店した際、同僚に「私はあんなに太っていないわよね」と話したら、同僚から「何言ってんのよ。同じくらい太っているわよ」といわれてショックを受け、減量に心がけました。まず夜遅く食べないようにして間食も止めました。野菜中心のおかずにして、夫の協力もありました。ただ生理の前後でたまらなく「食べたくなる」気持ちを抑えられず、食べ過ぎて少し太ることもありますが、そのあと節制して減量できました。その結果、体重が減って→ヘモグロビンA1cが下がって→インスリン注射量が減っていきました。当初80kgの体重は68kgへ、ヘモグロビンA1cは8%から5.8%へ、インスリンは40単位から21単位(平成19年10月現在)まで減りました。多分、治療費も相当負担が減ったことと思います。
《症例2》61歳、女性。両親が糖尿病で、心筋梗塞、脳梗塞、腎不全(透析)を患った。
35年来糖尿病で、内服治療中。軽度肥満。
平成19年2月に本を読んで「膵臓疲弊」ということを知り、なるべく薬をのみたくないと思ってがんばることにした。間食を止め、メシを1回につき80gに減らし、肉の代わりに大豆製品を多くとるように心がけた。コレステロールを始め、糖尿病の薬もすべて中止した。
体重は54kgから46kgまで減り、HbA1cは薬なしでも8%から5.8%に下がりました。コレステロールも200以下に維持されています。
《症例3》62歳、女性。
20年来糖尿病で、中等度肥満。あらゆる糖尿病の薬(4種類)を内服中。
平成15年8月に単純網膜症だったが、眼科受診を怠っていた。平成19年9月に眼科で前増殖網膜症といわれ、レーザー治療が必要かもしれないと言われてびっくりした(失明の恐れあり)。このことをきっかけに少し本気になって、3食のメシをお粥に代えて量を増やし、空腹を紛らわせた。
まだ1ヶ月しかたっていないが、88〜90kgの体重は86kgに減り、HbA1cはいままで9%以下になったことはないが8.6%まで下がった。今後に期待できそうだが、いつまでその気持ちを持続できるか不安です・・・・。
このように、医者が正論を吐いても患者さんの心に響かず難しい面があり、一方何かショックなことをきっかけに「心を入れ替えて」改善することの多いのも事実。また強い信念をもつことも大切です。ご褒美がなくても(減税や年金増額など)、本・マスコミ・講演会などを通じて糖尿病のことを理解するようにして精進していけば、糖尿病も怖くないはずと思うのですが・・・・。
さて、あなたはできますか?(先の(1)〜(4))
皆さんには4部の参考資料(パンフレット)を差し上げて、終了となりました。
閉会後には糖尿病があって脳梗塞で半身麻痺したものの、必死のリハビリで歩行や生活に支障がないほどに回復した患者さんの苦労話や、別の患者さんからは現在内服している薬を見せられて、これは強い薬かどうかなど質問があり、お答えしました。